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無題 鷺島 薫様

■ 無題 鷺島 薫様 (ネタバレ有り、文字は背景色を使っております。)

あいつがまた来てる―――――。
鏡のなかの自分が無意味に笑っているときは、必ずあいつがここに来ている。
麻衣の言葉がいまだにどこかひっかかる。
nolljin.jpgジーンの遺体を解剖させた僕を、あいつは冷たい人間だと言うが、そうだろうか?
ほんとうに解剖させたことを諌める行為は、まるで飼育していた牛を単なる肉塊に変えてしまうだろう業者に売り払い、いざ牛が肉塊になり果てたときにその業者を責めるようなものだ。
僕はジーンの遺体だからこそ、発見されたときには嬉しかったし、解剖してすべてを知り尽くしたいと思った。
たったひとりの肉親だからこそ、事実をすべて解明したいと言うことが、なぜあの人たちにはわからないのだ。変えようのない事実は、認識して釈明しなければならない。
ジーンはなぜ死んだのか?

わからないままではあまりに悔しすぎる。せめて僕が「仕方がなかった」と思えるような、ましな死に方をしていてほしいと思うが。
この気持ちが、なぜ麻衣たちにはわからないのだろう。
ジーンと暮らしたことのない者が、なぜジーンの死を悲しめるのだろう。そしてなぜ僕を責めるのか?
―――麻衣は―――。麻衣は夢のなかでジーンに会っている。あいつの優しさに触れている。だが、麻衣が出会ったのは死んだジーンだ。 なぜ死んだとわかっているのにあんなに―――。
ジーンはなぜ死んだのか。
なぜ僕をおいて逝ったのか。
なぜ死んだのか。
渦巻く感情は思い出すたび胸が痛い。馬鹿なヤツだったと言いながら、心のどこかで生きていてほしかったと思っている。
生まれてからずっと――側にいたのに。
あいつはずっと言ってくれていたのに、僕はとうとう何も言えなかった。
それは、これからも口にはしないだろうが。
鏡のなかからそっと伸びてくる透けるようなあいつの腕。かるく頭に触れ、そしてゆっくり消えていく。
うっとうしくも心地よかったあの日々が脳裏を通りすぎていく。
(………ナル)
脳髄に直接話かけてくるやわらかい声。
(………ナル、いつまでも僕の死を気にしていちゃだめじゃないか)
――気にしているわけじゃない。お前があんまり馬鹿だから、頭から離れないだけだ。
(僕はきみに、いちばん幸せになってほしいと思ってるんだよ、だから―――)
よけいなことだ。
(またそんなこと言って。きみがそんなふうだから、いつまでも僕は成仏できないんだよ)
………お前のほうこそ、そんなことは気にせずにさっさと逝けばいいだろう。だいたいお前は、僕のところじゃなくて、麻衣のところに行ったほうがいいんじゃないか。
(………ナル、嫉妬してるんだ)
馬鹿なことを。僕が誰を相手にそんな低な感情を抱くというんだ。
(麻衣が僕を好きだから。……それとも、僕がナルに会う前に麻の衣夢に顔を出したからかな?)
いいかげんなことを言ってないで、さっさと行くべきところに行ったらどうだ?
(あいかわらずなんだから。きみがそうなら僕はずっと側にいるよ。ずっと見てるから)
いいからはやく成仏しろ。
ジーンの影は鏡から消えた。くすくす明るい笑いを残して。
こういうとき、思わず鏡のなかの自分から笑みがもれる。
1%の期待。
いちばん鬱陶しくも、いちばん嬉しかった言葉。
言ってくれないか、ジーン。
自嘲気味な笑みがもれる。
99%は欲しくない。けれど、ただ一瞬だけ落ち着くために。
そして、ジーンの気配がまた鏡に蘇ってくる。
(ナル愛してるよ)
――ああ、僕も。本当は愛してるよ。
ただ、言葉にはださないけれど。



―END―


鷺島 薫さんは…さんをつけるとなんか妙な感じです(^-^;A昔からの相棒です。
私の周りには小説を書けるのは彼女しかいないです。
文章がニガテな私には小説が書けるのはすごいことです。
私が思うに、彼女の書く文章はとってもクールなので、 ナルの心理を書いたものなんかはしっくりくると思いまふ。
確かに、原作を読んだ時点で読んだ人、1人1人の考え方や想いが混じると想うから読んだ人全員にナルだと納得させるのは難しいけど、遙かに近いナルになるでしょう。
あ゛っしまった、シャレになってしまった( ̄□ ̄;)!!

ちなみに、最初の方にあるイラストは私が勝手にイメージして描いたものです。


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