『Lonesome Paradise』 鷺島 薫様
■ Lonesome Paradise』 鷺島 薫様
夏。
ゴキゲンな長期休暇がやってきた。
休日とはいえ目覚めはすっきり。出掛ける準備に時間は掛からず、麻衣は玄関を出る。
飛び乗ったのは旧型電車で冷房設備は扇風機。もちろん風はナマヌルイ。
(ガックリ……)
麻衣はドアにもたれかかる。
ただ立っているだけでじっとり汗ばんでしまうのだから、せめて電車くらい快適に乗させてくれてもいいじゃない、そう思いながらちらり外を見やる。
真夏日。雲なし風なし陽は燦燦。キラキラした景色が過ぎていく。まぶしい。
夏なのねぇ、しみじみ思う。
電車はさほど込んでおらず、麻衣は空席を見つけると窓を開け放って座る。
電車のスピードに乗った具合のいい風を感じる。
髪をなびかせる心地よい刺激に、外からの陽気もくわわりしだいに眠くなってくる。いけない、と思いつつ麻衣はウトウトしはじめる。身体の欲求に心はいつも忠実に従う。
シブヤー シブヤー
車内放送。
夏。
ゴキゲンな長期休暇がやってきた。
休日とはいえ目覚めはすっきり。出掛ける準備に時間は掛からず、麻衣は玄関を出る。
飛び乗ったのは旧型電車で冷房設備は扇風機。もちろん風はナマヌルイ。
(ガックリ……)
麻衣はドアにもたれかかる。
ただ立っているだけでじっとり汗ばんでしまうのだから、せめて電車くらい快適に乗させてくれてもいいじゃない、そう思いながらちらり外を見やる。
真夏日。雲なし風なし陽は燦燦。キラキラした景色が過ぎていく。まぶしい。
夏なのねぇ、しみじみ思う。
電車はさほど込んでおらず、麻衣は空席を見つけると窓を開け放って座る。
電車のスピードに乗った具合のいい風を感じる。
髪をなびかせる心地よい刺激に、外からの陽気もくわわりしだいに眠くなってくる。いけない、と思いつつ麻衣はウトウトしはじめる。身体の欲求に心はいつも忠実に従う。
シブヤー シブヤー
車内放送。
麻衣ははっと目を覚ます。反応がはやい。
(渋谷…?)
看板を確認すると急いで降りて1人赤面する。
(まいったなぁ……)
彼の本名は知っているのに、いまだにこの言葉に素早く反応してしまう自分がニクイ、と思いつつ可愛かったりする。
外に出てみると、はやくも肌に汗の感触。やはり電車内の方がまだ快適だったように思う。
都会の夏。
太陽の熱よりも電気熱の方が強いと思われるこの街。
おしゃれではあっても過ごしにくい。排気ガスと煙草、食物のゴミ。臭いは熱気で不快感を増す。
ホームを出て、ハチ公前を通り過ぎる。ねっとりとした暑さを考えないように道玄坂をずんずん進む。額から汗が流れるのを、ハンドタオルで拭いながら。
おしゃれな街のおしゃれなビル。そこが目的地。
煉瓦色のバイト先。
ブルーグレーのドアに金色の文字。「SPR」と光っている。
「SPR」……「渋谷サイキックリサーチ」
心霊現象調査事務所のオフィス。
麻衣はノブを回そうとした手をハタと止める。
(きっとあたしは一番のり。ということは、だ……)
オフィスの中は暑いだろう。クーラーが効くまでには少し時間がかかる。
(あぁぁ………なんて。嘆いててもしょーがないかっ)
早く涼しい場所にいき落ち着きたい。
それにはさっさとこのドアを開けて、クーラーを付けるのが1番の近道。
麻衣は鍵穴に鍵をさしこみドアを開ける。
(おやぁ?)
玄関先にまで涼しい空気がやってきている。麻衣は拝むように手を組んで踊りだす。
「カイテキじゃないかぁ」
幸せいっぱいに叫ぶと両手をふりあげ、ぐるぐる回りながら応接室へと進む。
すとん、快適なワルツステップでフィニッシュを決めソファーに腰をおろす。
(あたしより先に来てるなんて……)
「タカ?」
キッチンに呼び掛ける。
と、同時に感じられる冷たい視線。麻衣は不安を隠さずそちらを向く。
……穴があったら入りたい。
麻衣は爆発寸前まで顔を赤らめる。
彼、がいた。うっとりするほど顔のキレイな少年。渋谷サイキックリサーチ所長、渋谷一也。とは世を忍ぶ仮の姿。その実態は世界的有名人、超心理学者のオリヴァー=ディビス氏。通称ナル。
麻衣は上目遣いにおそるおそる言う。
「……いらっしゃったんですか……」
ナルはなおも冷たい軽蔑の眼差しを向けてくる。
「麻衣……」
は…、溜め息をついて広げていた分厚い本を閉じる。
「お前が馬鹿なのは今に始まったことじゃないが」
彼が呆れ果てているのはその声色から良くわかる。
「何、でしょう?」
「気がきかない」
「……はぁ?」
麻衣は片眉をあげナルを見返す。
「人より先に来てオフィスを快適にしておこうとは思わないのか?」
表情を変えず抑揚のない声で一言。
カッチン。麻衣はナルをにらみあげる。
「あたしはっ、じゅうぶん早く来たっっ。何だい、たまたま自分が先に来たからって--」
「じゅうぶん早く来た?時計を見ろ」
言われて腕時計を見る。
まだ十時を過ぎたばかりだ。時間的には早いと思う。
「まだ十時じゃん」
「……麻衣、時計すら読めなくなったのか。バイトやめるか?」
ナルは視線をオフィスの時計にうつす。つられてそちらを見てみると。
十二時半。
「あらら……」
どうりで電車が空いていたはずだ、などと関係ないことを思いつつ、麻衣はバツ悪そうにナルを振り向く。
「あたしの時計、ちょっと狂ってて……」
「ほう……」
ナルは言い訳の先を促すように目を細める。冷たい態度が様になっている。
「しかたないじゃん。気づかなかったんだからっ」
「なるほど。動物は飼い主に似ると言うが、機械でもそれは通じるようだな」
「あんたねー。自分が来たときクーラーが効いてなかったからくらいでそこまでカラむ?」
「誰が絡んでいると?」
「あんただよ、あんたっっ」
「……クーラーが効いてなかったことは大した問題じゃないんだが………」
「じゃ、何なのよ」
「--べつに」
ナルは、言葉をにごして席を立つ。資料室のドアを開け、ふいに振り返って一言。
「お茶」
「ナルっ。またそうやって話をはぐらかす。気になるじゃん。何が問題なのよ?」
「言ってほしいのか?」
うんざりしたようなナルの言葉に、麻衣は大きくかぶりを振る。
「……僕が来たときに麻衣がいなかったこと」
「えっ?」
麻衣は頬を手の平でつつみこむ。
(うわーっっ。照れちゃうよ)
「ナル、それって……」
喜びを隠せない麻衣の様子に、非常なナルの言葉。
「本気にしたのか?つくづくめでたい女だな」
--ガクン。肩を落としたが麻衣は見逃さなかった。
ナルの滅多に見れない照れた顔。
―続く―
これは相棒が19歳の時の夏に書いてくれたものです。
ちょうど、ゴーストハントが再開された年だったと思います。
暑い夏の描写とかも上手いですし、麻衣やナルを原作に近いくらい読み取っていると思います。なのでやり取りがとっても楽しいです(^O^)
なにを隠そう…ナル麻衣ですよ~~
読んでて照れちゃいます(笑)
(渋谷…?)
看板を確認すると急いで降りて1人赤面する。
(まいったなぁ……)
彼の本名は知っているのに、いまだにこの言葉に素早く反応してしまう自分がニクイ、と思いつつ可愛かったりする。
外に出てみると、はやくも肌に汗の感触。やはり電車内の方がまだ快適だったように思う。
都会の夏。
太陽の熱よりも電気熱の方が強いと思われるこの街。
おしゃれではあっても過ごしにくい。排気ガスと煙草、食物のゴミ。臭いは熱気で不快感を増す。
ホームを出て、ハチ公前を通り過ぎる。ねっとりとした暑さを考えないように道玄坂をずんずん進む。額から汗が流れるのを、ハンドタオルで拭いながら。
おしゃれな街のおしゃれなビル。そこが目的地。
煉瓦色のバイト先。
ブルーグレーのドアに金色の文字。「SPR」と光っている。
「SPR」……「渋谷サイキックリサーチ」
心霊現象調査事務所のオフィス。
麻衣はノブを回そうとした手をハタと止める。
(きっとあたしは一番のり。ということは、だ……)
オフィスの中は暑いだろう。クーラーが効くまでには少し時間がかかる。
(あぁぁ………なんて。嘆いててもしょーがないかっ)
早く涼しい場所にいき落ち着きたい。
それにはさっさとこのドアを開けて、クーラーを付けるのが1番の近道。
麻衣は鍵穴に鍵をさしこみドアを開ける。
(おやぁ?)
玄関先にまで涼しい空気がやってきている。麻衣は拝むように手を組んで踊りだす。
「カイテキじゃないかぁ」
幸せいっぱいに叫ぶと両手をふりあげ、ぐるぐる回りながら応接室へと進む。
すとん、快適なワルツステップでフィニッシュを決めソファーに腰をおろす。
(あたしより先に来てるなんて……)
「タカ?」
キッチンに呼び掛ける。
と、同時に感じられる冷たい視線。麻衣は不安を隠さずそちらを向く。
……穴があったら入りたい。
麻衣は爆発寸前まで顔を赤らめる。
彼、がいた。うっとりするほど顔のキレイな少年。渋谷サイキックリサーチ所長、渋谷一也。とは世を忍ぶ仮の姿。その実態は世界的有名人、超心理学者のオリヴァー=ディビス氏。通称ナル。
麻衣は上目遣いにおそるおそる言う。
「……いらっしゃったんですか……」
ナルはなおも冷たい軽蔑の眼差しを向けてくる。
「麻衣……」
は…、溜め息をついて広げていた分厚い本を閉じる。
「お前が馬鹿なのは今に始まったことじゃないが」
彼が呆れ果てているのはその声色から良くわかる。
「何、でしょう?」
「気がきかない」
「……はぁ?」
麻衣は片眉をあげナルを見返す。
「人より先に来てオフィスを快適にしておこうとは思わないのか?」
表情を変えず抑揚のない声で一言。
カッチン。麻衣はナルをにらみあげる。
「あたしはっ、じゅうぶん早く来たっっ。何だい、たまたま自分が先に来たからって--」
「じゅうぶん早く来た?時計を見ろ」
言われて腕時計を見る。
まだ十時を過ぎたばかりだ。時間的には早いと思う。
「まだ十時じゃん」
「……麻衣、時計すら読めなくなったのか。バイトやめるか?」
ナルは視線をオフィスの時計にうつす。つられてそちらを見てみると。
十二時半。
「あらら……」
どうりで電車が空いていたはずだ、などと関係ないことを思いつつ、麻衣はバツ悪そうにナルを振り向く。
「あたしの時計、ちょっと狂ってて……」
「ほう……」
ナルは言い訳の先を促すように目を細める。冷たい態度が様になっている。
「しかたないじゃん。気づかなかったんだからっ」
「なるほど。動物は飼い主に似ると言うが、機械でもそれは通じるようだな」
「あんたねー。自分が来たときクーラーが効いてなかったからくらいでそこまでカラむ?」
「誰が絡んでいると?」
「あんただよ、あんたっっ」
「……クーラーが効いてなかったことは大した問題じゃないんだが………」
「じゃ、何なのよ」
「--べつに」
ナルは、言葉をにごして席を立つ。資料室のドアを開け、ふいに振り返って一言。
「お茶」
「ナルっ。またそうやって話をはぐらかす。気になるじゃん。何が問題なのよ?」
「言ってほしいのか?」
うんざりしたようなナルの言葉に、麻衣は大きくかぶりを振る。
「……僕が来たときに麻衣がいなかったこと」
「えっ?」
麻衣は頬を手の平でつつみこむ。
(うわーっっ。照れちゃうよ)
「ナル、それって……」
喜びを隠せない麻衣の様子に、非常なナルの言葉。
「本気にしたのか?つくづくめでたい女だな」
--ガクン。肩を落としたが麻衣は見逃さなかった。
ナルの滅多に見れない照れた顔。
―続く―
これは相棒が19歳の時の夏に書いてくれたものです。
ちょうど、ゴーストハントが再開された年だったと思います。
暑い夏の描写とかも上手いですし、麻衣やナルを原作に近いくらい読み取っていると思います。なのでやり取りがとっても楽しいです(^O^)
なにを隠そう…ナル麻衣ですよ~~
読んでて照れちゃいます(笑)
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