当ページではスタイルシートを多用しているため旧式のブラウザでは一部表示結果が想定通りにならない事がございますが、内容をご確認頂く上で支障が無い様に配慮しております。予めご了承くださいませ。

『500円』 じゅりりん様

■ 『500円』じゅりりん様

「では、これで終了だな」
ナルの声が響く。 
いつもより冷たい声に聞こえるのは、気のせいじゃないだろう。
今回の依頼は公園に出る霊現象の解明。結局中学生が仕組んだいたずらだってわかったんだから。
ぼーさんが例によっておじさんモードに入ってお説教して返したけど、はっきり言ってわざわざ出てきたあたしたちって馬鹿みたいじゃない。
池のまわりをとり囲むように設置したマイクを回収するべく、あたしたちは動き出した。
ナルにリンさん、安原さんという事務所メンバー以外にぼーさんと綾子、ジョンまで引っ張り出したというのに....。
ナルと綾子はこんな草ぼーぼーの茂みに入ろうとしないので、肉体労働するのはあたしと安原さんにジョンだ。リンさんとぼーさんは大きい機材を運んでるし。
畜生~...!
それでも何とか全部回収を終えて一息ついてると、綾子がタオルを渡してくれた。
「結構時間かかったわね」
「綾子が手伝ってくれたらもっと早く終わったよ」
「やあよ。あんたみたいに泥だらけになっちゃう」
確かに、高そうなスーツにハイヒールじゃ泥まみれになりたくないだろうけど...あたしだって好きで汚れてるんじゃないやい。
ぶつぶつ言いつつ、それでもタオルで服や身体についた泥を拭く。何かこのへんって昨日雨だったせいか地面が湿っててスニーカーなんてもう泥々。帰ったら洗わなきゃ。
「あんた、顔に泥はねてるわよ」
「ええっ!?」
綾子が差し出してくれたコンパクトを覗くと、確かに右の頬にはねてる。
髪は乱れてぼさぼさだし。
あ~あ...。
手の甲で泥を拭き.....
「あああああああああっっっ!!!」
急に大声をあげたもんだから、みんなが一斉にこっちを見た。何か関係ない人までこっちを見てるけど、それどころじゃない。
「ど、どうしたのよ」
「ない! ないの!」
「何が?」
焦りまくってるあたしにあくまで冷静に聞く綾子。
「...ヘアピン」
集まってきたみんなは、あたしの答えを聞くと呆れた顔になった。
「それっくらいでそんな大声出すんじゃないわよ」
「....だって...」
ああ、みんなの視線が冷たい。
でも負けるもんか。
キッと顔を上げるとあたしは茂みに逆戻りし始めた。
「おい麻衣、まさかおまえ..」
「うん。探す」
ぼーさんの声を最後まで聞かず、茂みの中に入っていった。
さっきまで眩しかった西日はもう姿を消し、だんだん日が暮れていくのがわかる。まだ明るいうちに探さなきゃ。
「ごめんなさい、後はお願いします」
拝むようにしてみんなを見た後、茂みをかき分けながら地面を見ていった。
あたしが歩いたのはこっち側。
少しして後ろの方で車の発進する音が聞こえた。
みんな呆れただろうなぁ...。
「でも、あれはただのピンじゃないんだから!」
ガッツポーズをとったあたしのすぐ後ろで声がした。
「ほほう」
勢いよく振り向くと、ぼーさんとジョンの顔があった。その後ろには安原さん。
「え? 帰ったんじゃないの?」
ぼーさんがあたしの頭を軽く小突いた。
「ばーか。こんなとこに置いてけるけないだろ」
「もう日も暮れかかってますさかい、女の子一人じゃ危のうおますよって」
「まぁ、乗りかかった舟ですね」
遠くに綾子の姿も見える。
さすがにこの中に入る気はしないみたいだけど、帰るわけでもなく、腕組みしたまま立っている。
よお~し、探すぞ!


...日が完全に暮れた時、あたしはとうとう敗北宣言を出した。
「もういいよ。ありがと、みんな」
何しろ手元がほとんど見えないんだから、もう仕方ない。こんなことなら蛍光塗料でもつけとけばよかった。ってそんなヘアピンあったらやだ。
「...いいんですか?」
小首を傾げて安原さんがあたしに聞く。
「大事なもんですのやろ?」
「う~ん..でももう見えないし」
それに、さすがにこれ以上あたしのわがままにつきあわすわけにもいかないでしょ。
「後で一人で探しに来たりしないな?」
...さすが年の甲。行動を読まれてる。
「来ないよ」
「わかった。じゃ、引き上げるか」
結局みんな手足が泥だらけ。
軽く泥をはたいて、ぼーさんの車に乗り込んだ。
ぼーさんたちが残ってあたしを手伝うと言った時、さっさと先に帰ったナルだけど、その時後で事務所に戻って来るように言ったとかで、今あたしたちは事務所に向かっている。
「で、一体そのヘアピンって何だったの?」
綾子が助手席から首だけをこっちに向けた。
「誰かさんからのプレゼントだったりしてな」
からかうように言うのはぼーさんだ。ちょっと惜しい。
「う~ん...内緒なの」
多分聞きたいんだろうけど何も言わないジョンと安原さんって、ありがたいなぁ。
そんな、あらたまって言うほどの事じゃないんだよね。単に、あたしが最初にこの仕事でもらったお給料で買ったものだってだけで。
ナルからもらったお金で買ったから、間接的にナルにもらったもの...っていうのはあまりにも無理があるけど。
でもそう思うだけだったらいいよねと勝手に決めてた。だから大切にしてたのに。
あ~あ。
ちょびっとブルーだ。


それでも事務所に着く頃には何とか立ち直っていた。
いつまでも落ち込んでて心配かけちゃまずいよね。
「随分かかりましたね」
泥だらけのあたしたちを見て、リンさんがかすかに笑った...ような気がする。
気のせいかな。
その後はいつものようにあたしはみんなのお茶係。まぁ今日ばかりはお礼の意味を込めて何も言わずにいれてあげよう。
「ナル、お茶入ったよ」
「持ってきてくれ」
ドアをノックして言うと、中からは相変わらず愛想のない声が返ってきた。
たまにはみんなでお茶ぐらいすればいいのに。
そう思いつつ、紅茶の入ったカップをトレイに載せて部屋に入った。
背中を向けているナルの横にカップを置く。
「ああ、麻衣」
「ん?」
振り向いたナルに小さな包みを手渡される。
何だろう?
「何?」
そう聞いたのに、ナルはもうあたしに背を向けていた。聞いたことぐらい答えろよな。
ぶつぶつ言いつつテープをはがして包みを開けると、中にはビーズの赤い花がついたヘアピンがあった。
「同じものじゃないがな」
相変わらずぶっきらぼうな声。
きっとあの後買ったんだろう。
リンさんも一緒だったのかな?
ああ、だからさっきリンさんがちょっと笑ってたのかも。
いろんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
黙ったまま立ち尽くしているあたしを不審に思ったのか、ナルが椅子ごとこちらを向いた。
「...麻衣?」
「あ、ありがと」
やっとのことでそれだけ言うと、ナルはふっと笑みを浮かべた。
「気にするな。特別手当だ」
あたしは何だかとても嬉しくて...。
手の中のプレゼントをぎゅっと握りしめた。
今度はなくさないようにしよう。
だって、これは本当にナルがあたしに買ってくれたものなんだから。

慌てて買ったんだろうなぁと思える、値札がついたままという事実はこの際内緒にしておこう。


―END―

これは”hazy moon”のじゅりりん様から頂いたものです。
最初頂いた時「妙なタイトルですが」と前置きをメールで書かれていて
ハテ?と思いながらタイトルを見ると確かにとても意味深なタイトルがっ(笑)
恋する少女のけなげな思いとナルのなるらしいさりげないやさしさ!
堪能させて頂きました!
みなさまこれを読んでニヤニヤして下さい(笑)
じゅりりん様ありがとうございました~(>_<)
じゅりりん様のホームページへ行くと他にもたくさんステキな小説が読めますよ~


「『500円』 じゅりりん様」の評価です。

↑クリックしても見た目は何も起こりませんが、頂いた拍手は届いています~(^-^

頂きもの | - | -